着物・半纏
刺し子着物の魅力
佐野美智子が現在、最も力を注いでいるアイテムが着物と羽織の制作です。
着物の制作は全体的なデザインを考えることからはじまり、制作も大変時間が掛かります。
1枚の着物を仕上げるのに月曜から金曜まで1日平均6時間の作業で約1年~2年半ほどかかります。
人間のやる手仕事ですので、同じ時間をやっていても進捗状況は日々違います。
とても順調に作業が進む日もあれば、気に入らずに何度もやり直しをする場合もあります。
とても忍耐と根気のいる作業ですが、完成した時の達成感は言葉では言いあらわせません。
私は刺し子が好きなので、毎日楽しく刺し子が出来ることに幸福と喜びを感じています。
刺し子作家 佐野美智子 歴40年
【天青 TENSEI】
佐野 美智子 2007年制作 変わり菱刺し
この着物は、刺し子着物シリーズの最初に手掛けた作品になります。
作品名は、色々と考えて最終的に「天青」としました。
「天青」は、中国の五代後周の皇帝が理想の青磁の色を表現した「雨過天青雲破処」
「雨上がりの空の青さ、それも、雲が破れるようにして晴れ始めた、そのあたりの青さ」の言葉にひかれ作品名としました。
実は、この「天青」ですが制作する前までは、時間はかかるけど、それほど大変な作業にならないのでは…と楽観的に考えていました。
しかし、実際に制作を開始してみると、想像以上に大変な作業の連続で参りました。
刺し子着物を制作する場合、まず無地の反物に下絵を描いてから、実際にひと針ひと針、ちくちくと刺していきます。
その刺していく作業の途中で、考えていた以上に下絵が擦れてすぐに消えてしまい、下絵を何度も何度も描きなおす作業が発生してしまいました。
長年、刺し子の作業をしているので、下絵を描いてから刺すと、下絵が徐々に消えてしまうことは、想定内のことなのですが、布によってどんどん消えてしまうものもあります。
正に、この最初の着物作品「天青」の布がそれでした。
下絵の描き直しの連続で悪戦苦闘の毎日。まったく作業が進まず、どうしたものか…と頭を抱えて悩んでしまいました。
その後、色々と試行錯誤の上、和紙に絵柄を描いてから下刺しをして、それにそって刺し子をして仕上げるのがよいという方法にたどり着き、下絵の描き直し問題は解決しました。
途中で何度も挫けそうになりましたが「いつか終わる…いつか終わる」と自分自身に言い聞かせ、作業を続けてやっと仕上げました。
ちなみに、こちらの「天青」は、1日6時間の作業をして約2年半かかりました。
「天青」の制作は、根気と忍耐のいる作業の連続でしたが、その分、完成した時の達成感は本当に素晴らしいものでした。
刺し子着物シリーズの最初の作品ということもあり、私の数多い刺し子作品の中でも特に愛着と思い出がある作品の一つです。
【綾 AYA】
佐野 美智子 2008年制作 洞羅柄刺し
この着物の刺し子の時は、あまり苦労しないで仕上げることが出来ました。
黒字に白の糸で刺すので、刺し糸の目が綺麗に揃うように気を付けて刺しました。
柄を考える時は毎度の事ですが、あまり見かけない物をと思って、この織物の柄を刺してみました。
私の作品は殆ど全刺しをしておりますが、ゆいつこの着物は部分刺しにしました。
刺し子半纏の魅力
現在、池田由美子が最も力を注いでいるアイテムが長半纏の制作です。
長半纏制作は時間がかかり体力的にも大変ですが、毎日楽しく作業をしています。
刺し子作家 池田由美子 歴20年
古典柄の長半纏
まだ刺したことのない、網代組麻の葉を
腕の部分と腰からしたの部分を刺したのですが
前身頃から後ろ身頃の縫いあわせの箇所の柄あわせと
糸目の数をあわせるのがとても苦労した作品です。
「網代組麻の葉に松丸」の長半纏は、
1日平均で約6時間作業をして、総制作日数は約9ヶ月で完成しました。
雷神の絵刺し長半纏
雷神の顔の表情で一番気を付けたのは目です。
目のバランスと瞳の大きさで勇ましい人相になるか優しい人相になってしまうかで
この作品のイメージが台無しになってしまうので
手直しをしないよう糸目の幅が合うようになった頃に顔を刺しました。
「雷神の絵刺し」の長半纏は、
1日平均で約6時間作業をして、総制作日数は約13ヶ月で完成しました。
烏天狗の絵刺し長半纏
以前から烏天狗の絵刺し長半纏を作ってみたいと思っていました。
良いデザインを思いつくと、すぐにデザイン画をノートに書き貯めていました。
烏天狗の構成と雲の配置、雲の流れの勢いと絵の掛け合わせに悩みながらできた作品です。
雲のデザインも昔の着物や書物や版画の絵を参考にして、烏天狗の絵とのバランスを見ながら決めた雲の絵です。
烏天狗の翼は、鷹や烏の羽を参考にしながらデザインしたので、
私的には結構良く刺せているなと思っています。
「烏天狗の絵刺し」の長半纏は、
1日平均、約6時間作業をして、総制作日数は約12ヶ月で完成しました。
蜘蛛の絵刺し長半纏
この作品が私の一番最初に作り上げた長半纏です。
デザイン画を考えている時は、実物の蜘蛛や蜘蛛の巣の糸をよく観察して絵を構成しました。
初めて考えた作画は、蜘蛛の糸の所にのっかっているようなデザインだったのですが、
ありふれているような感じを受け、蜘蛛が垂れ下がり、上にのぼっていこうとしている絵にしました。
蜘蛛の糸は、儚げに濃淡をつけてみようと色糸を使い表現してみました。
「蜘蛛の絵刺し」の長半纏は、
1日平均、約6時間作業をして、総制作日数は約4ヶ月で完成しました。
鍾馗の絵刺し長半纏
この長半纏は、全刺しで柄を全部下刺しをしてから、絵のパーツ事に下糸を外しながら本刺しをしていく為、2着分刺していくようになり、2倍の手間がかかります。
鍾馗様は、雷神や烏天狗とは少し違った勇ましいお顔立ちを意識して刺しました。
怖い人相だけでなく、人らしい優しい面影に注意して刺し、髪の毛や髭の流れを糸目の幅や、糸と糸の幅を変えることで、毛先や動きを表現できるよう刺しました。
小鬼は、ゴツゴツしたイメージに、少しだけ怖い表情と動作に注意して作り上げました。
岩柄を地刺しにしていて、柄合わせがとても大変で、布と同じ濃紺の糸で刺しているので、新しい時には、あまり目立たないかもしれません。
何度か洗濯をして、長く愛用していくうちに、糸が浮き上がり変化を楽しめる作品です。
「鍾馗様と小鬼の絵刺し」の長半纏は、
1日平均、約6時間作業をして、総制作日数は約16ヶ月で完成しました。